植物は傷ついたDNAの修復方法を成長に応じて使い分けていた ?変異導入を制御することで効率的な新品種開発に展開?(大学院理工学研究科 吉原亮平助教 共同研究)
2024/9/24
発表のポイント
生物はDNAの傷を治す仕組みを複数備えているが、その使い分けは長年の謎であった。
種子では主にDNAを「ほぼそのままつなぐ」修復をするのに対し、幼植物では「大きく加工してからつなぐ」修復をすることを見出した。
農業と環境に欠かせない育種の高効率化への貢献が期待される。
概要
量子科学技術研究開発機構高崎量子技術基盤研究所(以下「QST高崎研」)の北村智上席研究員らは、埼玉大学大学院理工学研究科の吉原亮平助教との共同研究で、DNAの傷を治す仕組みが植物の成長段階に応じて使い分けられていることを発見しました。
生物は自身の遺伝情報であるDNAを正確に維持するために、DNAに生じた傷を治す様々な仕組みを進化の過程で獲得してきました。植物では、最も重篤なタイプの傷である二本鎖切断(→用語解説)を治す際、切れたDNAを「ほぼそのままつなぐ」仕組みが主役として働き、「大きく加工してからつなぐ」仕組みが脇役として働くと考えられていますが、二本鎖切断の修復の様子を数多く検出して調査することが難しいため、2つの修復方法がどのように使い分けられているのかはよくわかっていませんでした。
QST高崎研では、放射線を照射した植物から変異を直接検出する独自技術(→用語解説)を開発していましたが、今回、この技術を用いて、放射線を種子と幼植物に照射して起こした二本鎖切断がどのように修復されるかを調べました。その結果、種子の場合は主に「ほぼそのままつなぐ」修復が、幼植物の場合は主に「大きく加工してからつなぐ」修復が行われていることを発見しました。この結果は、従来から考えられてきたように2つの修復方法が主役?脇役の関係にあるのではなく、植物が成長段階に応じて両者を使い分けていることを意味します。
変異、すなわちDNA配列の変化は生物にとってリスクであると同時に新たな特性を生み出す進化の原動力でもあります。人類が有史以前から行ってきた育種も同じメカニズムによります。今回得られた知見から、放射線を照射する植物の成長段階を選んだりDNAの傷を治す仕組みを制御したりする変異導入によって、効率的に新品種開発が進むと期待されます。
本研究は、国際植物雑誌Plant Journalに令和6年9月24日(日本時間)にオンライン掲載されました。本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(JP19K12333, JP16H06279[PAGS])及びキヤノン財団の助成を一部受けています。
論文情報
タイトル | Differential contributions of double-strand break repair pathways to DNA rearrangements following the irradiation of Arabidopsis seeds and seedlings with ion beams |
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著者 |
Satoshi Kitamura1, *, Katsuya Satoh1, Yoshihiro Hase1, Ryouhei Yoshihara2, Yutaka Oono1, Naoya Shikazono3(*:責任著者) 所属: |
掲載誌 |
The Plant Journal |
DOI |
用語解説
1)二本鎖切断:らせん状に二本の鎖が絡まりあった構造をしているDNAの両方の鎖が放射線照射などによって同時に切れることで、最も修復が難しいDNA損傷です。
2)変異を直接検出する独自技術:変異処理した植物そのものには様々な変異細胞が混在して複雑であるため、生じた変異を検出することが難しく、従来は変異処理した植物の後代を用いて変異を検出していました。しかし、植物の後代を解析する従来法では、変異の一部が世代を経る過程で失われるため、変異処理によって生じた全変異を検出できませんでした。QST高崎研では、放射線照射した植物から特定の変異細胞を識別することで、変異処理した植物そのものから直接、生じた全変異を検出する独自技術を開発していました。今回この方法を適用することで、DSBの修復の痕跡を従来法よりも数多く検出することができました。
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