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研究トピックス一覧

「魚のヒレ」長かったり、短かったり!? 仕組みを解明 ―ヒレの多様な形成位置をもたらす単純なシステム―(大学院理工学研究科 川村哲規准教授)

2024/6/13

概要

埼玉大学大学院理工学研究科生体制御学プログラム 川村哲規准教授と安達うらら大学院生(令和5年度博士前期課程修了)を中心とするグループは、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター 松田 勝教授、岩波礼将特任准教授、情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所 川上浩一教授、前野哲輝技術専門職員、埼玉大学大学院理工学研究科 古舘宏之助教らと共同で、魚のヒレの形成される位置がHox(ホックス)遺伝子によって制御されていることを初めて明らかにしました。この成果により、Hox遺伝子の働く場所が魚の種類によって異なることで、バラエティーに富んだヒレが生み出されることが示唆されました。つまり、多様なヒレの位置やヒレの幅の違いは、Hox遺伝子からなるシステムを一部、変化させることで生じていることが分かりました。さらに、本研究から、進化の過程で、魚のヒレの形成位置が変化してきた仕組みについて、新たなモデルが提唱されました。
本成果は、『米国科学アカデミー紀要』(PNAS、インパクトファクター12.8)に掲載されました。

ポイント

「背ビレ」や「臀(しり)ビレ」は、魚の種類によって、からだの前後軸に沿って、「ヒレの形成される位置」や「ヒレの幅(前後に沿った長さ)」が異なります。どのようにして、このような多様性が生じるのか、全くの謎でした。

からだの位置情報を担うHox遺伝子に着目し、さまざまなHox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカを作製した結果、「ヒレ形成」を促進するHox遺伝子と、「ヒレ形成」を抑制する別のHox遺伝子があり、ヒレの前端と後端の位置を決めていることが分かりました。

Hox遺伝子の働く場所は、動物種によって変化することが知られています。ヒレにおいても、Hox遺伝子の働く場所が、魚種によって異なることによってパラメーターのように機能し、ヒレの形成位置を変え、バラエティーに富んだヒレが生じることが、本研究によって初めて明らかとなりました(図4)。

また、進化の過程で、ヒレの形成位置が変化する仕組みについて、新たな進化モデルを提唱しました(図5)。

本研究で発見されたHox遺伝子による魚のからだづくりのシステムを標的とすることで、人工的に「カタチ」を変えた養殖魚や観賞魚の作出が期待されます。

論文情報

掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
https://www.pnas.org/
論文名 Teleost Hox code defines regional identities competent for the formation of dorsal and anal fins
 (真骨魚類Hoxコードは、背ビレや臀ビレが形成可能な領域を規定する)
著者名

Urara Adachi, Rina Koita, Akira Seto, Akiteru Maeno, Atsuki Ishizu, Sae Oikawa, Taisei Tani, Mizuki Ishizaka, Kazuya Yamada, Koumi Satoh, Hidemichi Nakazawa, Hiroyuki Furudate, Koichi Kawakami, Norimasa Iwanami, Masaru Matsuda, and Akinori Kawamura

安達うらら1、小井田理奈1、瀬戸 彬2、前野哲輝3、石津克己1、及川紗英1、谷 太晟1、石坂瑞樹1、山田一哉1、佐藤こうみ1、中澤秀道1、古舘宏之1、川上浩一3、岩波礼将2、松田 勝2、川村哲規1
1埼玉大学大学院理工学研究科
2宇都宮大学 バイオサイエンス教育研究センター
3情報?システム研究機構 国立遺伝学研究所

DOI

https://doi.org/10.1073/pnas.2403809121

用語解説

「ゼブラフィッシュとメダカ」 
ゼブラフィッシュとメダカは、真骨魚類と呼ばれる脊椎動物において最も多くの種からなるグループに分類される。両者ともに、成魚において体長は4-5cm程である。外見上、両者は似ていると思われがちであるが、真骨魚類のなかでは進化的に離れている。インド原産のゼブラフィッシュは、コイ目コイ科に属しているのに対して、メダカはダツ目メダカ科に属し、サンマやトビウオと近縁の関係にある。

「魚のヒレ」 
一般的に魚には、胸ビレ、腹ビレ、背ビレ、臀ビレ、尾ビレの5種類のヒレがある。胸ビレ、腹ビレは「対ビレ」と呼ばれており、四足動物の前肢?後肢と進化的に起源を同じにする。一方で、本研究で中心に取り上げる背ビレ、臀ビレ、そして尾ビレは、正中線上に存在する「正中ビレ」であり、魚特有の構造である。魚はさまざまな水息環境に適応するために、ヒレの位置や長さを変化させたと考えられている。

「ヒレを構成する条(じょう)」
魚のヒレを支持する細い骨。背ビレと臀ビレでは平行に並んでおり、鰭条(きじょう)とも呼ばれる。

Hox遺伝子群」
動物の発生において、からだに位置情報をもたらす(座標のような)役割をもつ重要遺伝子群。ショウジョウバエを使った研究で見出されたホメオティック遺伝子が端緒であり、ヒトをはじめとする脊椎動物においてHox遺伝子が存在することが示され、1995年に3人の研究者にノーベル生理学?医学賞が授与された。脊椎動物では、1~13番のHox遺伝子が並んだ遺伝子クラスターを形成する。ゼブラフィッシュでは、7つの遺伝子クラスターに合計49個のHox遺伝子が存在している。

「遺伝子を壊す意味」
生命科学研究において、遺伝子の機能を明らかにする際には、遺伝子を破壊し、その影響を観察することで、目的の遺伝子の機能を解析することが、常套手段である。ある遺伝子を壊した際、ヒレが無くなった場合は、この遺伝子はヒレの形成に必須な機能をもつことが分かる。

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