2021/07/23
【教養学部】 昔ながらの暮らしぶりを守るアーミッシュの伝統文化の確立と日常生活の関係性を考察する
教養学部 ヨーロッパ?アメリカ文化専修課程/野村研究室
2021/07/23
教養学部 ヨーロッパ?アメリカ文化専修課程/野村研究室
馬車に乗り、コンピューターを持たずに暮らす――アメリカで昔ながらの暮らしを続ける「オールド?オーダー?アーミッシュ」。教養学部の野村奈央准教授は、自身の研究のために、毎年渡米して彼らと生活を共にしてきました。今回はそのユニークな研究内容を紹介します。
私は北米に居住する「オールド?オーダー?アーミッシュ(Old Order Amish)」の研究を行っています。
オールド?オーダー?アーミッシュは、18世紀に主にドイツから渡ってきた移民を祖先とする敬虔なキリスト教徒で、現在でも、教義に基づいて、昔ながらの生活を送っていることで知られています。例えば、家の中で電話を使用することは禁止されていたり、自動車の運転が認められていないため、移動手段に馬車が使われていたり――という感じです。
彼らを対象とした研究はこれまでもたくさんの研究者によって行われてきましたが、どちらかというとコミュニティの外から彼らを観察し、その独特な宗教文化を浮き彫りにしようとするものがほとんど。
そんな中、私の研究は、これまで扱われてこなかった日常生活にフォーカスしています。そして、実際にアーミッシュの家庭に滞在して、その暮らしを詳細に記録していくという点で特徴的なのです。
現在、取り組んでいるテーマは「伝統的な宗教アイデンティティの形成と大量消費文化の関係」についての分析。彼らの生活は自給自足のイメージが強いのですが、一般社会の経済と全くつながりがないわけではありません。実際に、この10年間、定期的に渡米して、あるアーミッシュの家庭に滞在してきましたが、私が運転する自動車で一緒にスーパーマーケットやショッピングモールに出かける機会もありました(編注:オールド?オーダー?アーミッシュの戒律で禁止されているのは自動車の運転で他人が運転する自動車に乗ることは禁止されていない)。
つまり伝統文化の中に、現代文化の一部が溶け込んでいるのです。
このような研究を行うには、まず協力相手と深い関係性を築くことが重要。ですので、研究の進行はとてもゆっくりしたものになります。
私の場合、滞在期間のほとんどは、家事の手伝いをしてきました。そうやって時間をかけて信頼を得てきたのです。ある時、結婚式の手伝いをして、彼らの伝統に則ったドレスを誂えてもらったのはよい思い出です。
2020年は新型コロナウイルスの影響で、渡米できませんでしたが、これまでの活動を振り返ると、研究にでかけるというよりは、毎年仲のよい家族に会いにいく感じで、とにかく楽しかったという印象があります。
一方で、質素な生活を経験することで気づかされることも多いです。
スマートフォンもPCも持たない彼らは、対面のコミュニケーションや家族がみんな一緒に過ごす時間をとても大切にします。だからこそ、お年寄りの面倒などは、家庭や地域がしっかり行います。さらに家の中に電気が通ってないので、災害で停電が起きても影響がなかったりと、彼らの生活には、高齢化への対応や防災?減災など、現代社会が直面する様々な課題解決のヒントが隠されているように思えるのです。
とはいえ、アーミッシュのコミュニティ内にも問題は存在します。今後はそのような面も含めた研究に取り組んでいきたいと考えています。例えば、家父長制社会の中であまり語られてこなかった女性たちや、コミュニティを離れた人たちのことなど――テーマは数限りありません。滞在先でのふれあいはもちろん、これまで陽が当てられてこなかった、このような人たちに光をあてられることも、この研究の醍醐味。日々やりがいと楽しさを感じながら研究に取り組んでいます。